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#020

2023.03.13

遺跡の発掘調査から考古学の奥深さに気づく。

文学部歴史学科3年生河村 謙太 さん

歴史学科に入ってから考古学に興味をもった河村さん。発掘調査の面白さやその達成感に魅了され3年生では発掘調査のグループリーダーを務めました。そんな河村さんに考古学の魅力やリーダーとして意識したことをインタビューしました。

縄文時代より前のことがわかる?考古学の魅力

歴史や遺跡が好きではない方は、考古学で何をするのかイメージがわかない方もいらっしゃると思います。
考古学は「文字で記録されないもの」を研究する学問で、遺跡から出土したものを観察したり過去の報告書と比較したりして、当時の文化や人々の暮らしを研究します。「文字で記録されない」ということが考古学の面白いところで、文献がないからこそ遺跡調査が重要になります。

考古学ゼミはもともと歴史や遺跡に興味がある人が多いですが、正直なところわたしはそうではありませんでした。ゼミ選択の時に歴史学科の先生方からゼミの取り組みなどについて説明をしていただいたときに、一番印象的だったのがこのゼミでした。

歴史学科は文献研究になることが多いですが、考古学ゼミは遺跡調査をするのでチームワークが必要になります。チームでひとつのことを追求するという点が他のゼミにはないことなのでこのゼミに惹かれました。

歴史学科の資料室にはたくさんの専門書が保管されています。

発掘作業って何?2年かけて発掘を学ぶ。

愛知学院大学の歴史学科では毎年夏に2週間泊りがけで新城市にある「萩平遺跡」で発掘します。萩平遺跡は旧石器時代から縄文時代早期の遺跡で、今までもナイフ形石器や尖頭器などを含む石器や土器がたくさん発見されている東海エリアの重要な遺跡の一つです。

参加者は25名前後。考古学ゼミの2・3年生の他、先生と大学院生も参加していくつかのチームに分かれて調査します。2年生はほとんどの学生が未経験なので、講義で測量器具の使い方を学んで、掘削範囲を決めるグリッドの作り方を練習します。どういうものが石器なのかを教えてもらいながら石器でバナナやかまぼこを切る実演もあるので面白い講義ですが、掘削は本番しか経験できません。そのため2年かけて先生や先輩に教えてもらいながら現場でその技術を磨きます。

発掘調査をする萩平遺跡。

手作業の多い発掘調査。大変だからこそ感じる達成感!

発掘というと工事現場で見るような掘削機械を使うと思われやすいですが、実際はすべて手作業。遺物が埋まっている「包含層」という所までは、ひたすらスコップで掘り続けます。

暑い中、掘るだけでも大変ですが、雨が降るとずぶ濡れの中での作業になるので想像以上に過酷な作業でした。しかし後半は「やっとここまで掘れた!」という達成感があり、その頃にはチームの団結力も強くなります。一人ではできないことでもチームでやればできるのが発掘調査の魅力でもあります。

発掘調査ではたくさんの道具を使います。

発掘するのは遺物だけではない!?

目標の地層まで掘れたらいよいよ本格的な調査がスタート。遺物を傷つけないために「両刃鎌」という道具を使って慎重に掘ります。

発掘調査では遺物が埋まっている“状態”も重要な情報源になるので、どんな角度で埋まっているのか、遺物のまわりの土の種類やその状態など遺物以外の情報が多いとその後の分析で解明できることが増えます。そのため、できるだけ多くの情報を残せるように丁寧に掘る必要があるのです。

約1メートルの深さまで掘ったときに撮影。写真では浅く見えますが実際はもっと深く感じます。

微細な手の感覚が重要。丁寧に発掘した先にあるもの。

慣れてくると両刃の先にカツンと当たる小さな感触がわかるようになります。それがただの石だったときは相当悔しいですが、それでも気持ちを落とさず、些細な手の感覚を頼りに掘り進めていくと、石器や土器のかけらを見つけられるようになります。見つかったときは「やった!」と思わず声が出てしまうほどうれしいです。

今までの調査ではナイフ形石器や紋様のある土器が見つかったこともあります。毎回新しい発見があるので調査は奥が深いと感じます。また自分の作業内容が調査の成果に直結するため、発掘調査の魅力にはまる人も多いです。

遺物が見つかったところにマークしていきます。

突然リーダーに抜擢!リーダーとしての苦労。

3年生の発掘ときに突然チームリーダーに選ばれて驚きました。基本的に大学院生がリーダーを務めますが、院生の方が少なかったこともあり、わたしがリーダーを務めることに。1年ぶりの発掘で自分の感覚を取り戻しながら後輩を指導しなければならないので大変でした。

発掘技術もモチベーションも人それぞれ。同じことを伝えているつもりでも伝わり方が違います。どうすれば伝わるのか、モチベーションが下がってきている後輩にどのように声をかけるか、精神面のケアやコミュニケーションのとり方を特に気をつけました。

発掘しても何も見つからないこともあります。そんな時はモチベーションが下がりやすいですが、わたしも先輩から「発掘は『何もないこと』がわかったということが成果だ」と教えてもらったことを思い出し、落ち込んでいる後輩に同じように伝えました。この考え方は発掘ならでは。後輩にも引き継いでもらいたい考え方です。

インタビューを受ける河村さん。石器の特徴など丁寧に教えて下さりました。

リーダーとして心がけたこと。

もう一つリーダーとして心がけたことは、遺物とそうではないものを後輩が自ら判断できるようにすることです。見分け方や遺物が見つかりやすい場所の特徴など、実例を見せながら教えるようにしました。例えば“石器”は縁が鋭く尖っていたり、人為的に割られた痕跡があったりすることが特徴ですが、“石”は基本的に川流れや堆積時の摩耗で縁が丸くなっていたり、表面がゴツゴツしていたりします。また、その地域特有のよく使われる石材など、自分で判断するコツを伝えることを意識しました。自分が伝えたことが来年の発掘で役立ててもらえればうれしいですね。

過去の調査結果などを参考にするために資料室をよく利用しています。

アナログ作業が重要になる整理作業の難しさ。

発掘は遺物を見つけて完結ではなく、その後の「整理作業」が重要です。整理作業とは遺物を発見した順番に並べて、ナイフ形石器と石槍を区別したり、何の剥片なのか調べたりして写真や図に残す作業のこと。それが卒論につながる人もいるので発掘後は整理作業に多くの時間を費やします。

整理作業のうち製図は最も難しい作業の一つ。寸分の狂いもなく実測し、凹凸や欠けがある場所を観察して図に起こすので、コツをつかむまでに時間がかかります。大きな遺物が見つかったときは図に記す情報も多いので2週間くらいかけて製図することも。

「写真があるのになぜ図に残すのか?」とよく質問されますが、写真と図があるからこそ正確な情報が得られます。肉眼で観察することで石の質感や凹凸などの立体感のある情報が得られるので、報告書には必ず写真と図が必要になるのです。報告書の枚数は遺物の数にもよりますが、今年は100枚くらいになるのでゼミ生で分担しています。自分では判断が難しいものを先生に相談することも多いので、このゼミでは先生とのコミュニケーションも大切になります。

ゼミ室で発掘した遺物を皆で手分けして整理します。

歴史学科に入って変わった歴史の見え方。

わたしは「大学に入ったらこれを勉強したい」という決まったものがありませんでした。そのため、色んな学科を受験したのですが、合格した中の一つが歴史学科でした。特に歴史が得意というわけではなかったので、最初はついていけるか不安でしたが、実際に授業を受けてみると大学で学ぶ歴史は高校までの暗記中心の勉強とは全然違いました。ある出来事を論理的に考える機会や世界史から見た日本史を考えるなど、今までにない視点で歴史を学べるのは大学ならでは。新しい視点で歴史を知ることができ、楽しく歴史を学べています。

迷いに迷った将来の道。

歴史の勉強や発掘調査の経験が想像以上に面白かったので、大学院に行き考古学の道に進もうと考えていました。考古学ゼミでは学芸員や測量会社など専門性を活かした仕事に就く人も多いので、その道に進む未来に憧れもしましたが、正直なところ気持ちに迷いもありました。

「今、選択肢を絞ってもいいのか?」
「他にも色々なことに挑戦して経験を積んだ方がいいのか・・・?」

大学院に進むには金銭的な問題もあるので両親にも相談しながら、自分の将来について真剣に考えました。そして迷いがあるのであれば将来の選択肢を増やすためにもまずは企業に勤めて経験を積むことを決意しました。

歴史学科で見つかった遺物。いつどこで見つけたものかわかるように袋や箱にいれて保管します。

今できることに挑戦したことが将来につながる。

大学でたくさんの情報に触れるうちに不動産業界や士業にも興味がわいたので、宅地建物取引士や会計についても勉強しています。また母親が経営する美容院でアルバイトをしている関係で、実は美容師の実技試験にも合格しました。この春に学科も受験する予定です。歴史とは全然ジャンルが違いますが、学生のうちにできることに幅広く挑戦したことが未来につながるかもしれないと思い、今できることに挑戦しています。例えば資格をとって不動産業界で働くことでより専門的な仕事ができる可能性がありますし、独立したいと思ったとき美容師のスキルを磨いて美容業界に進むこともできるかもしれません。一つの道を究めることにも憧れますが、今は色々な経験を積みたいと考えています。

考古学に興味があるみなさんへ。

考古学は専門性が高いがゆえに「今から選択肢を絞ってもいいのか?」と心配に思う方もいると思いますが、発掘調査の経験や考古学の考え方が無駄になることはありません。専門性だけではなくチームワークや色々な視点から事実を見つめる考え方は社会でも生きるスキルだと思います。そもそも発掘調査のカリキュラムがある大学は東海エリアでは愛知学院大学だけ。考古学を通して多くのことを学べるので、興味がある人は是非、考古学を選択してほしいと思います。

これからも愛知学院大学のホットなトピックスを配信して行きます。
お楽しみに!
また今後、取り上げてほしいテーマなどありましたら、
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