#025
2023.08.24
書道との出会いが人生を変えた。一番の思い出は憧れの舞台での書道パフォーマンス
文学部日本文化学科久保田 優華 さん
コロナ禍でつらい経験をしながらも、書道部の活動を通して多くのパフォーマンスと作品制作をしてきた久保田さん。どのような思いで書道と向き合ってきたのか、憧れの舞台で書道パフォーマンスをしたときのエピソードなど充実した大学生活について熱く語っていただきました。
書道との出会い。
わたしが初めて書道と出会ったのは6歳の頃。スポーツが好きな活発な子どもだったので、当時はそんなに書道が好きではありませんでしたが、週に1回だけだったこともあり、習い事の一つとして中学校1年生まで続けていました。一旦遠のいた書道を再開したきっかけは高校の芸術科目です。わたしの母校である鈴鹿高等学校では芸術科目として音楽、美術、書道の中から1つ選択する必要があったので、経験があった書道を選択しました。そこで大学生になった今でもお世話になっている恩師との出会いがありました。
人生を変えるきっかけになった展覧会。
高校1年生のときに書道の授業で「第33回高円宮杯日本武道館書写書道大展覧会」に出展し、そこで表彰されたことをきっかけに書道の世界にはまっていきました。
それまで何かに表彰された経験がなかったわたしは表彰されたことがうれしすぎて、もっと書道をしたいと思うようになりました。恩師から「書道を本気でやってみたら?」と声をかけていただいたこともあり、書道部にも入って、部活でも家でも書道を練習する毎日。練習の甲斐あって翌年の「第34回高円宮杯日本武道館書写書道大展覧会」でも「日本武道館奨励賞」を受賞し、その他にも多くの展覧会で表彰していただきました。
それまでは部活に入ることもなく、勉強も嫌いで成績は下から数えた方が早いくらい。ただ毎日を楽しむだけで満足する生活でしたが、書道部の友人と過ごす時間が長くなるにつれて自然と勉強するようになり、3年生になってからは学年で上位3位の成績まで上がりました。書道がなかったら大学に進学もしていなかったかもしれないと思うと、書道を再開したことでわたしの人生は大きく変わりました。
迷いに迷った進路選択。
進路選択のときに書道の有名大学も検討しましたが、当時は書道だけの道に進むことに迷いがありました。専門の大学に行ったら全国から書道が得意な学生が集まるので、そんな中で自分の実力が通用するかもわかりませんし、「つまずいたらどうしよう」という不安もあったためです。また美容や服飾が好きだったので、その道に進みたい気持ちもあり、進路選択にはとても悩みました。
そんなときに愛知学院大学にも書道ができる学科があることを知りました。愛知学院大学は書道専門というよりは「ゼミで書道を選択できる」という位置づけだったので、もしも書道でつまずいたり、他のことに興味が出たときに他の選択肢もあるという点に安心感があり、最終的にこの大学を選びました。
コロナ禍の苦労とかけがえのない出会い。
散々迷った末にようやく進学を決めましたが、コロナ禍でほとんど通学できませんでした。パソコンが得意ではないので、オンライン授業もついていくのがやっと。友だちもできず、初めての一人暮らしなうえに毎日一人で過ごさなければならない状況に気分が滅入ってしまった時期もありました。
「この状況がいつまで続くんだろう」と不安な日々を過ごしていましたが、貴重な通学日に声をかけた同級生と仲良くなり、書道部ではとても親身になって相談にのってくださる先輩に出会えたおかげで、少しずつコロナ禍の大学生活に慣れてきました。
入部したときのわたしは金髪で派手な外見だったので「なんでこの子が書道部に!?」という印象だったようですが、書道部もコロナ禍で展覧会などが軒並み中止になり、活動できていない時期だったので「活動できないのに入部してくれてありがとう」と声をかけていただいたことを覚えています。つらいコロナ禍でしたが、かけがえのない出会いもありました。
書道パフォーマンスがしたい!その強い思いで。
3年次はようやく普通の学生生活が送れるようになって、過ぎ去った2年分をとりもどすかのように活動してきました。書道部の部長になり、まずとりかかったことは新入生歓迎の書道パフォーマンスです。書道パフォーマンスとは大きな半紙に複数人で文字を書くこと。同じ紙の上に文字を書くので密になってしまいますが、「人との距離がとれるならばやってもいい」という条件つきで許可をいただいたので、距離をとりながらできるパフォーマンスを練りに練って考えました。
そんなときに思いついたのが「ソーシャルディスタンスパフォーマンス」です。単純に「紙を分けて最後にくっつければいいんだ!」と閃きました。大きな板を3枚用意して、そこに半紙を貼って個々に文字を書く。そして最後に合算して一つの作品にする方法を考案しましたが、実現するのは想像以上に大変でした。
「挑戦」という文字を3人で分担して書いたのですが、文字のつなぎめを合わせたり、全体のバランスをとったりするのが難しくて、本番までの約二ヶ月間、みんなで何度も練習しました。
そしてようやく迎えた本番。珍しくて目出つパフォーマンスなので多くの学生が見に来てくれました。初めてのパフォーマンスで緊張している部員もいましたが、みんなで練習の成果を発揮して楽しくパフォーマンスできました。
不要になったものに価値を吹き込む。UPCYCLE書道。
今までの書道部もパフォーマンスはありましたが、基本的には展示会に出展する「THE 書道部」という感じの部活だったので、わたしが部長になってからはそのイメージを変えていきました。
例えば、新しい活動として学内で「UPCYCLE書道」をしました。UPCYCLEとは廃棄物など価値がなくなったものに新しく価値を創り出す活動のこと。書道は書くものと筆があればどこでも書けます。そこを生かして学校のSDGs活動と連携して、クラブハウスに眠る廃棄物に書道アートをし、クラブハウスを書道アートで彩るという活動をしました。時には絵具やインクを使ってカラフルにすることも。それぞれの部員に喜んでもらえるように心をこめて、斬新なデザインを考えました。
その他にもアパレル会社とコラボした「オーロラリフレクト書道」で、フラッシュ撮影すると真っ白な生地に文字が浮かび上がる水のりで書いた世界初の書道アート作品にも挑戦しました。
もちろん古典的な書道を否定するわけではありませんが、それだけでは若い人に興味を持ってもらうことはできません。書道を衰退させないためにも、新しいことに挑戦することも必要だと思っています。このような活動を始めてから、運動部と並行して書道部に入る学生や、初めて書道をする学生が増えてきたので、新しい活動をして良かったと思っています。
人間的に大きく成長できた企業とのコラボパフォーマンス。
書道部としていろいろな挑戦をしてきましたが、人間的に成長するきっかけになったイベントは、2022年10月に行った「大学生と地元企業の未来へつなぐ挑戦!愛知学院大学 × Re.Bell -リベル-」です。
初めての企業とのコラボ企画で部員の半分がパフォーマンス未経験の状態。課題山積の中で挑んだパフォーマンスは何もかもが大変でした。
一番苦労したのは人間関係です。みんな「やりたい」という気持ちはあっても、どことなく緊張感がなくて時間にもルーズ。書道パフォーマンスの前に団体行動すらできていない状態でした。しかし、自分でもどう指導したらいいのか、何を伝えたらいいのかわからずに随分悩みました。わたしはみんなに「文化祭ではなく、一般のお客様の前で行うパフォーマンスであること」、そして「企業とコラボするので学内イベントより責任があること」を自覚してほしかったのです。副部長が相談にのってくれましたが、自分でも悩みをうまく言葉にできなくて…悩んでいるうちにいつの間にか限界がきてしまい、リハーサルの前日に過呼吸を起こしてしまうほど、自分を追い込んでしまっていました。
この出来事をきっかけに一度部内で話し合うことになり、みんなで思いの丈をぶつけ合ったことで、全体の動き方が変わりました。積極的に練習するようになって、意見を言い合えるようにもなったのです。わたしも行動で示せるように高校時代の恩師に相談したり、他校のパフォーマンスを見たりして「かっこよく見せる方法」を研究。時には自分で動画を撮影して、一般の方にも書道パフォーマンスを楽しんでいただけるように、パフォーマンスの見せ方や字体を考え、みんなにレクチャーしました。
ようやく迎えた本番では、みんな声も出ないほど緊張していましたが、とにかく堂々と自分の字を書くことに集中して、なんとか無事に本番を終えることができました。
たくさん悩んでつらい思いもしましたが、この経験を通して「嫌われる勇気」を学びました。「嫌われたくない」「こわい先輩だと思われたくない」と思っていると、お互いに本音が言えず、いつまでたっても問題は解決できません。伝えるべきことはハッキリと伝えて「間違ってると思ったら教えて」というスタンスにした方が、お互いのためになるということに気づきました。嫌われたくないと思って自分の意見を抑えていましたが、結果的に本音を言い合った方が後輩から信頼してもらえるようになり、部全体の雰囲気もよくなりました。
念願かなって、憧れの舞台での書道パフォーマンス!
大学入学前にプロバスケットチームのシーホース三河と書道部がコラボした動画をYouTubeで見たときにあまりにかっこよくて「いつかこの舞台に立ちたい」と思っていました。1・2年生はコロナ禍でそのチャンスはありませんでしたが、3年生の冬に出演が決まったときは嬉しくてたまりませんでした!
このパフォーマンスはよさこいサークル「常笑」とのコラボ企画で、前回の企業コラボとはまた違った大変さがありましたが、今後の書道部のためにも前回のパフォーマンスよりも“質を上げること”を大事にしました。質を上げるためにはまずパフォーマンスそのものを見直す必要があります。そのため、「全国高等学校書道パフォーマンス選手大会(書道パフォーマンス甲子園)」の映像を見て、文字の配置やパフォーマンスを一つ一つ分析するなど、書道パフォーマンスを一から学び直しました。恩師からも「行間や空間がそろっていることが一番NGである」と教えていただき、全体のバランスを考えた文字構成を考えました。
前回のパフォーマンスでは各々が“自分の文字”を書いていましたが、今回はあえて個性は出さず、一つ一つ字体や行間も指示をして、パフォーマンスとして一つの作品を作り上げることを重視しました。みんなで週に3回は練習して、文字を書いてはその上から書き直し、全身墨だらけになるほど練習しました。
本番ではスムーズに書き出せるように鉛筆で印をしていたのですが、本番はライトを暗くする照明の演出があったので、印どころか文字を書くのも大変な状態でした。みんなは本番が終わってから「すごく焦った」「緊張しすぎて何も覚えていない」と話していましたが、わたしは緊張どころか憧れの舞台に立てたことがうれしすぎて、パフォーマンスの前からワクワクしていました。パフォーマンスをしている最中も楽しすぎて、あっという間に終わってしまいましたが、みんなで一つの作品を作り上げることができて、大学生活の中で一番思い出に残る経験になりました。
書道は芸術。デザインの幅を広げて。
大学でさまざまな形で書道に触れたことで、書道との向き合い方が変わりました。高校までは展示会に出すために書道をしていましたが、最近はオリジナルの書を書いています。わたしは誰もが「きれい」と思う文字よりも個性がある文字の方が好きなので、活字や習字ではなく、芸術的な書道に魅力を感じています。展示会に出す作品では古典的な書道が評価されますが、一般の世界では理解されにくいですし、SNS上ではただ「書ける」だけでは数ある作品の中に埋もれてしまいます。
伝統を守るためには古典的な書道も大切ですが、わたしはオリジナルな書道に力をいれていて、文字から受けたインスピレーションを書道で表現しています。例えば真っ白な空間があったら文字の配置を考えて、書きながらイメージを膨らませていきます。そして何通りも書いたものの中からしっくりきたものを更に改良して作品を作り上げていきます。
最近では大学の勉強と並行してSNSで発信したり、御朱印や名刺、法被や会社のロゴなどをデザインしたりしています。わたしの活動を「書道ではない」という人もいますが、書道という日本文化・芸術をこれからの世代に繋げるためにも新しい伝統の伝え方があってもいいのではないかと思っています。
挑戦してみないとわからない。これからも書道を続ける。
大学で新しいことに挑戦し続けることで、大学は学生が主体であるということを実感しました。先生方のフォローもありますが、基本的に計画から運営まですべて学生が行います。そのため、責任も伴いますが、主体的に活動したからこそ、経験と学びがありました。また自分から「やりたい」と意思表示することも大切です。ソーシャルディスタンスパフォーマンスもSDGsの活動も、自分から学校側にやりたいと伝えたことから始まりました。チャンスがあっても待っているだけでは何も始まりません。わたしのモットーである「何でもやってみる」という考え方には、大学という場がとても合っていました。
わたしは書道と出会ったことで人生が変わりました。一時期書道から離れた時期はありましたが、結局この世界に戻ってきたので、運命を感じます。これからも何らかの形で書道に関わり続けるだろうと思っています。書道だけで生きていけるのか不安がありますし、他にもやりたいことがたくさんあるので、まだ進路に迷いはありますが、自分の腕がどこまで通用するのか挑戦してみようと思っています。両親も「帰ってくる場所があるうちに何でも挑戦しなさい」と背中を押してくれているので、「今だからできること」にこれからも挑戦し続けていきたいです。
【久保田さんの作品一覧】